レアチーズケーキ

家庭内不和がかなり進んで居た。
18日は誕生日だったのだが、当然のように祝う余裕など無く、緊張状態は最高潮に達していた。
なんとか打開と言うか、和平調停を結ぼうと会談に及んだが、頑なな相手国は徹底抗戦の構え。交渉は決裂かに思えた。
そんな中、旧国(両親)から我が生誕を祝うための、レアチーズケーキが贈られてきた。
極度の緊張状態の中、ケーキを切り分け食卓に並べるが、その間、目線を合わせる事も言葉を交わすことも無い。
これが最後の晩餐になるのか、などと思いながらケーキを口に運ぶ。

「うっそ、何これ、凄い美味しい! ねぇ、私今まで食べた中でもかなり美味しいんだけど?」

あれ? 何ですか、この反応は?
いや、しかし、確かにこのケーキは美味い。君が言う台詞は最もだと肯く。

「だよね? えー、これ義母さんの知り合いの人が作ったんだっけ? 凄いねー」

本当にね。
どれだけ言葉を投げかけても決して崩れなかった君のガードをこれほどまでに簡単に打ち壊すとは…本当に凄い。

こうして、我が家の家庭内不和は、チーズケーキの美味しさによって解決されましたとさ。
美味しいものは、例えどんな人にでも平等だ。
美味しいものには、人を幸せにする魔法がかかっている。
パティシエは、そんな魔法を使える魔法使いだと思った。